河童日記

暇つぶしです

遭遇

通学途中、車窓から林が束の間見える場所がある。毎朝通り過ぎる単調な風景の一つとして気にも留めていなかったのだが、ある朝ふとそこにトトロを見つけた。

なぜそれまで気づかなかったのかというくらいの不思議な存在感で、小さな林の中に一人佇んでいるそのトトロは、木板を切り抜いて色付けしてあるもののようである。いつ誰が置いたものなのか気になって調べてみると、その近くにある就労支援施設の人達が、自然環境の保護を訴えるという目的で作製して設置したものらしい。それにしてもどこか心をざわつかせるトトロである。

顔つきが妙なのである。妙といってもその作りがおかしいというのではなく、その無表情の中から切実に何かを訴えかけてくるような顔つきをしている。当初の目的である自然環境保護を訴えているのだろうかと思ったが、それだけではどこか違和感が残る。そこでふと気づいたのは、トトロとの出会い方である。

例えば山道を散策していてそこでトトロに出くわしたら、そしてそれが自然環境保護のためのものであると聞いたら、おそらく納得するであろう。ゴミの一つや二つくらい拾っていくかもしれぬ。しかし今回の場合、電車の窓越しにトトロと出会う。トトロから見れば、得体の知れない金属の箱に乗った人間が、目の前を高速で通り過ぎていくのである。つまり、自然の権化であるトトロと自然を食い物にする人間とが、電車という人工物を介してすれ違う構図ができているのである。

自然保護を訴えるトトロの前を、混雑した車内で俯く人間が一日に何度も通り過ぎていく。トトロからすれば、自分の思いが多くの人間には届かないということが痛感されるだろう。その蓄積はやがて諦めとなってその表情に宿るに違いない。だとすれば彼に浮かぶ妙な表情は、人間への期待と諦念の入り混じったものなのではないか。そう考えると、彼が小さな林を背に立っているのも、ここだけは奪わないでくれという懇願に見えてくるのである。

いずれにせよ、いるだけで心をざわつかせるトトロは、やはり大したものである。久しぶりに「となりのトトロ」が観たくなった。