河童日記

暇つぶしです

野生

研究室からの帰り道、研究所から駅に向かう道を、小さな黒い影が3つ横切っていった。猫だ、と思った。その3つの影は大きい1匹と小さい2匹で構成されていたから、仔猫も含む猫一家だろう。どちらかといえば犬派の私にでも、たまに見る猫は可愛らしく見えるものであるし、仔猫となれば尚更である。それで近づいていったのだが、よくよく見てみると姿形が何が違う。

猫にしては胴長だし、尾も太いし、足も短い。怪訝に思っていると、道の端からもう1匹飛び出してきて、そこでようやくその顔を見ると、特徴的な白い鼻筋である。ははあ、猫ではなくてハクビシンだったか、と思ったのも束の間、そのハクビシン一家は道沿いに建った家の庭へ消えていった。何年か前、東京にもハクビシンが住み着いた、という記事を読んだ記憶がある。この外来種め畑を荒らしおって、という思いもありつつ、しかしハクビシンを見るのは初めてだったから、少し興奮してしまった。

後で調べてみると、見るからに作物を食い荒らしていそうな可愛げのない顔である。暗い夜道で見るぶんには結構愛らしい顔つきをしていると思ったのに、やはり日頃の行いというのは顔に出るものである。とはいえ彼らも悪さを働こうとして畑の作物を食べるわけではあるまいし、日本にだって来たくて来たわけではないはずだから、彼らは彼らでなんだか可哀想である。

慣れない日本に来て、ひっそりと、でも確実に繁栄して、今や家族で東京をうろつくようになったと思えば、彼らの生命力たるやあっぱれである。きっと彼らの一生を人間のそれに引き伸ばして考えたら、我々とは比べものにならない早さで順応していくに違いない。ちょうど研究が行き詰まってきたのをハクビシンに見透かされて、私の適応力不足を指摘されたようである。猫よりもよっぽど良いものを見た。