河童日記

暇つぶしです

地下

車窓からぼんやり外を眺めるのも案外悪くない。晴れている日は、遠く山並みが望めたり、川の白鷺が目に眩しかったりする。雨の日であっても、霞んだ風景が妙に幽遠な雰囲気を出していたり、モノクロの中で黄色いレインコートが一点だけ際立って見えるのが印象的だったり、いずれにせよ飽きがこないものである。

それに引き換え地下鉄のなんとも退屈なことよ。外を見てもひたすらトンネル、トンネル、またトンネルである。ガタンゴトンという、線路を進む列車特有の心地よい音も、地下鉄ではトンネルで反響されてただただ騒々しい。地下という閉鎖空間を、人を輸送する以外の目的を失くした列車の亡霊が突き進むのである。情緒もへったくれもあったものではない。

無論、地上のスペースが建物で埋め尽くされつつある都会においては、輸送手段を地下に移設するしか道がないのも分からないではないが、その弊害はあまりにも大きい。地上を走る電車が地下に潜るにつれて、車内も殺伐としてくるように感じるのも、気のせいではないのではあるまいか。息がつまるような圧迫感では、心も磨り減ろうというものである。樹上生活から進化してきた霊長類に、いきなりモグラになれと言ったところでどだい無理な話である。

輸送方法を地下に逃げる時点で都会はもはや限界である。いづれ地下にも逃げ道がなくなり、空に逃げようにもコストが邪魔をして、飽和してしまうに違いない。先恐ろしい話である。